研究室 & ゼミ紹介3
八百年の時を超えて
3年次の第一演習では、鎌倉~室町時代の文学作品をひとつとりあげ、ゼミ生が担当箇所について、読解、探究していきます。藤原定家の『拾遺愚草』をとりあげ、「たちなるゝとふひのゝもりをのれさへ霞にたとるはるのあけほの」の一首を読解、探究する場合をみてみましょう。テキストは定家自筆本『拾遺愚草』の写真版(冷泉家時雨亭叢書 朝日新聞社刊)で、いわゆるくずし字で書かれていますから、まず、文字を読みとること―翻字から始めます。翻字については、すでに古典文学基礎演習で練習を積んでいます。歌の翻字は上記のとおりですが、歴史的仮名遣いでは「おのれ」であるところ、定家仮名遣いでは「をのれ」と、異っていることに気づきます。仮名遣いの基準や歴史については、国語学概論Ⅰで学んでいます。さて、この歌の表現を探っていくと、『古今和歌集』の「春日野の飛火の野守いでてみよいまいくかありて若菜摘みてむ」をふまえているらしいと推定されてくるでしょう。この古今集歌については、定家が『僻案抄』に注釈を記していますから、作者である定家自身の理解を知ることができます。また、元来中国の「霞」と日本の「かすみ」とは異なる現象を指していましたが、漢詩文の「霞」の表現が和歌表現に影響することもありました。そうした事情の把握には、日本漢詩文での学びが関わってきそうです。このように、これまで学んできたことを活かし、ときに学びなおし、また、調査、検討の方法を開拓しながら探究をすすめることで、八百年ほど前、定家がこの歌を詠んだ当時の理解に近づいていくことができます。その過程で、ゼミ生相互のアイデアの持ち寄りもあり、相乗効果が期待されます。
こうした体験は、4年次の卒業研究に活かされていきます。さらに、解決すべきテーマの設定→調査・検討→解決法の考察→解決案の提示、という演習での学び、探究は、テーマこそ違えど、社会のさまざまなところで行われているのではないでしょうか。そうした場面にも通用する力を養うことにもなるのです。