研究室 & ゼミ紹介6(国文学科)
ゼミは卒論を揉むところ
私は日本近代文学を専攻しています。明治末期から大正・昭和前期にかけて活躍した志賀直哉という作家の小説を中心に、とくに性差・格差・環境の差異、時代の違いなど、〈いまここ〉との差異・違いに目を向けて研究を行っています。
日本の近代文学の特徴として、自分自身を語る私小説という方法があります。作家たちが試みたのは、自分を語ることで自分を知り、自己を批判したり弁護したりするということでした。自己というテーマを自分で語ろうとするその試みは、狭い世界への退行のようにも見えます。しかし自己を探究したいという欲望そのものは、時代や環境や性差を超えて誰にでも共有可能な欲望です。分析に際しては、ことばや物語における性差の問題、男性作家たちが女性という異性をいかに語るのかにも興味を持っています。ことばは性差を超えるのか、男性作家も女ことばで考えることができるのか、そしてそこに女性作家はどうことばを差し挟むのか、といった事象も見逃せません。20世紀の作家たちが行った自己探求のありようを、21世紀の〈いまここ〉から見直すような文学研究を目指しています。
担当している「国文学演習」は卒論のためのゼミですが、3年生と4年生の合同ゼミとして行っています。3年生は毎年、〈明治大正の事件と文学〉、〈女性同士の文学〉、〈教師小説〉などテーマを設定して研究しています。4
年生はそれぞれが自分で卒論テーマを選択しますが、それをみんなで揉んで形にしてゆく、協働作業の場所として捉えています。発表者としてレジュメを作り、調査の結果や考察を他人に報告することは、自分の思考を形にする練習となります。参加者として仲間の発表を聞き、他人の思考を理解し、自分の考えをまとめ、質問や意見を言うことは、ディベートの練習となります。こうして4年間の集大成としての卒業論文を完成させます。卒論を書き上げた学生たちはしっかりと大人の顔になっています。